詩 『 犬のぬいぐるみ 』

       物心つく頃から
       きみは
       物分りのいい子どもだった
       買ってくれと
       せがむ子らを尻眼に
       おもちゃ売り場の前を
       すたすたと歩いて行き
       嫌いなピーマンも
       鼻を抓んで真っ先に
       食べてしまう
       きみは
       そんな子どもだった
       そのきみが
       一度だけ
       駄々をこねたことがある
       いままで見せたことのない
       くしゃくしゃの顔をして
       ぽろぽろと
       大粒の涙を流していた
       入院中のきみの姉さんが作ってくれた
       長い茶色の耳をした
       ピンク色の犬のぬいぐるみ
       いつも抱っこして
       どこに行くときもいっしょの
       犬のぬいぐるみ
       きみは
       いつも丁寧に扱っていたけれど
       犬のぬいぐるみは次第に黒ずみ
       ぼろぼろになっていった
       その犬のぬいぐるみを
       母親に
       「捨ておしまいなさい」
       と言われ
       「替わりのぬいぐるみを買ってあげるから」
       そう言われても
       きみは
       言葉にならない嗚咽を上げるばかりで
       胸に抱きしめたぬいぐるみを
       手放そうとはしなかった
       
       きみの姉さんと同じ名前の犬のぬいぐるみ
       きみが姉さんと遊べない分
       いっしょに遊んだ犬のぬいぐるみ
       きみは犬のぬいぐるみを抱き
       今日も愛おしそうに頭を撫でている
       
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by dreaming_star | 2004-08-10 23:21 |
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