詩 『 ありがとうしか言えない苦情係 』

       僕は以前
       苦情係をしていたことが
       あるんだけれども
       その時は
       本当に辛かったよ
       
       どんなに罵声を浴びせらても
       どんなに馬鹿呼ばわりされても
       お客様には
       絶対に歯向かっちゃいけない
       だから僕は
       謝ることしか出来なかったんだ
       
       電話だから
       顔は見えないだろうと
       またかよって
       少しうんざりした顔で
       応対していたらね
       話しているうちに
       今まで穏やかだった
       電話越しのお客様の声が
       だんだん変わっていってね
       終いには
       怒鳴り声になってね
       気を静めるのに
       苦労したことがあったよ
       
       僕の横柄な態度が
       電話越しに伝わったんだろうね
       それから
       僕は電話をするときは
       椅子の上でも正座して
       応対するようになったのさ
       
       ある時ね
       いつものように
       苦情の電話を受けていていたんだ
       それが
       1時間経っても2時間経っても
       電話の声の主は喋り続け
       ちっとも切ろうとしない
       
       僕は時々
       「お客様のおっしゃるのはごもっともです。」
       などと相槌を打ちながら
       聞いていんだけれど
       そのうちに
       言葉が出てこなくなったんだ
       「はい」って言おうとしても
       声が喉に引っかかって出てこない
       
       きっとこころが
       耐えきれなくなったんだろうね
       それでも
       僕は声を振り絞って
       しわがれた声で言ったのさ
       
       「ありがとうございます」って
       
       自分でもどうしてそんな言葉が
       出てきたのか分からないけれど
       僕は声にならない声で
       何度も何度も繰り返したのさ
       「ありがとうございます」ってね
       
       するとね
       電話の声の主が黙り込んだのさ
       急に黙るもんだから
       切れちゃったのかと思ったよ
       でも電話は切れていなかったんだ
       だって微かに
       しゃくりあげる声が聞こえてきたからね
       
       電話の声の主は泣いていたのさ
       どうして急に泣き出したのか分からないから
       僕は「どうしたのですか?」と聞きたいのに
       「ありがとうございます」と言ったのさ
       だって「ありがとうございます」しか
       言えないのだから
       繰り返すしかなかったのさ
       
       沈黙の時が続いた後
       電話の主がひとこと言ったんだ
       
       「ごめんなさい」と
       
       僕は「ありがとうございます」って答えようすると
       あっという間に電話は切れてしまったのさ
       
       「ありがとうございます」
       としか言わなかったのに
       苦情係が逆に誤られちゃった
       ちょっぴりほろりとした
       僕が苦情係だった頃のお話
       
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by dreaming_star | 2004-03-17 21:47 | 詩の目次1-100
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