詩 『 トマト 』

                     子供の頃
                     ぼくは
                     トマトが嫌いだった
                     海苔巻の干しいたけや
                     飾り付けに添えられた
                     パセリと同じくらい
                     トマトは嫌いだった
                     トマトが
                     食卓に並んでいるときには
                     一番最後まで
                     トマトは残っていた
                     くし切りにされたトマトは
                     
                          「おいしいぞ、食べてみろ!
                           ひとくち齧れば、その味分かる」
                     
                     いつもそう言って
                     空になった皿の上で
                     ぴょんぴょん二匹
                     うさぎみたいに飛び跳ねていた
                     
                     その空になった
                     皿の上のうさぎが
                     食べられるようになり
                     ぼくは
                     大人になった気がした
                     でも
                     それは間違いだった
                     ぼくが今まで
                     大人になったつもりで
                     食べていたのは
                     熟れる前に収穫され
                     スーパーの店頭で
                     程よく赤みを帯びた
                     トマトだった
                     
                          「天然無農薬、
                           取れ立てのトマトだよ。」
                     
                     きみは
                     トマトをもぎ取ると
                     シャツの裾で拭い
                     そら、食べてみろっ!
                     という顔をして
                     鷲掴みにしたトマトを
                     ぼくに差し出す
                     ぼくは
                     トマトを受け取ると
                     ガブリッ
                     ひと齧りする
                     トマトは
                     生温かく
                     口の中に
                     ジュワーッと
                     トマトの味が
                     広がった
                     
                          「そう、この味!
                           子供の頃味わった
                           あの、トマトの味がする!」                     
                     
                     ぼくは
                     ちとくち齧ったトマトを
                     きみによく見えるように
                     高く持ち上げると
                     声高に
                     そう言っていた
                     
                          「この味!
                           そう
                           この味!
                           すっぱくて
                           ちょっと癖のある
                           トマトは
                           こんな
                           味だよね。」
                     
                     ぼくは
                     きみの作ったトマトを
                     ブンブン振り回しながら
                     久しぶりに味わった
                     トマトの味に
                     少しはしゃぎ気味に
                     「このトマト、おいしいねっ。」って
                     入道雲に向かって言う
                     ぼくが
                     トマトをもうひと齧りすると
                     きみは
                     日に焼けた顔をにんまりさせ
                     額の汗を手の甲で拭った


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by dreaming_star | 2004-07-26 20:08 |
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