詩 『 鯛網なあいつ 』

       でべらなあいつは
       最近、鯛網に嵌っているらしい
       「鯛網の始まる5月の初旬前から
        網の手入れをする漁師の爺さんの手伝いをしているんだぞ」
       近所の漁師のおじさんが教えてくれる
       でべらなあいつにもいい所があるんだな
       ぼくは少しあいつを見直しはするが
       「何か変だぞ」と
        うさん臭さもしっかりと嗅いでいる
       
       「お前も、いっしょに乗りに行かないか?」
       あいつに言われるままに
       ぼくは鯛網船に乗り込む
       網おろしの祝いと大漁の祈りを込めた
       樽太鼓が勇ましく鳴り響き
       「乙姫」が大漁祈願の舞を舞い始める
       ぼくの心も潮風に乗り躍り出す
       大漁祈願が済み
       鯛網船が瀬戸内の沖に漕ぎ出すと
       見送り手を振る人々の影を次第に薄くし
       初夏の風を思わせる温かい風が
       僕の頬を擽り
       また新たな風となり
       海の向こうに消えて行く
       
       網しぼりの勇ましい掛け声に
       ふと我に返る
       あいつのことが気にかかり
       辺りを見回してみると
       いたいた
       あいつが
       あいつは「乙姫」の傍で
       でれっとした顔で
       鼻の下なんか伸ばしたりして
       「乙姫」をじーっと見つめている
       
       あいつは
       「乙姫」の掛けた網にまんまと掛り
       桜鯛のような頬をして
       甲板でぴちぴち跳ねている       
       
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by dreaming_star | 2004-06-08 22:01 |
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