詩 『 握手 』

       「また来ますね」
       あなたと握手を交わし
       電車の時刻を気にかける僕は
       時刻表の入った鞄に
       手をかけようとする
       「それでは、また」
       あなたにそう声をかけると
       時間ばかり気にする僕は
       部屋の出口に向かおうとする
       でもあなたは
       しっかりと握ったまま
       僕の手を放そうとしない
       少しかさかさの手で
       僕の手の甲を摩りながら
       眩しそうな目で僕を見つめている
       
       あのとき あなたは
       何を言いたかったのだろう
       あのとき あなたは
       僕に何を伝えたかったのだろう
       あなたの時間は余りにも速く流れ
       いまでは僕だけが取り残されてしまった
       あのときには もう
       あなたは話すことさえ出来なかったが
       もう少し あなたと
       共に過ごす時間が長ければ分かったかも知れない
       僕の時間は速く廻り過ぎ
       あなたの時間は僕の何十倍も速く廻り過ぎた
       過ぎてしまった時間は取り戻せない
       あなたと共にいる時間は
       もう記憶の中にしか蘇らせることが出来ない
       
       時間などない世界の中の僕が
       あなたと握手を交わしている
       あなたの手のぬくもりを感じながら
       あのとき あなたが
       伝えたかった声を聞こうとしている
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by dreaming_star | 2004-05-04 22:59 |
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