詩 『 無心 』

       心を見失った者は無音を恐れる
       会話は楽しむためのものではなく
       うわ言のような戯言を
       ただ繰り返すだけで
       心の通った話など聞けやしない
       
       心を見失った者は娯楽を求める
       テレビから聞こえるのは嘘の笑い
       重視されるのは視聴率であり
       視聴者など眼中にないのだから
       くだらないバラエティ番組が
       蔓延るのも無理はない
       
       気を紛らわせるために
       寂しさを紛らわせるために
       可笑しくもないのに笑い
       声高に笑えば笑うほど
       広がるのは空虚なブラックホール
       
       心を見失った者は
       その空虚感を無心だと思っている
       大きな勘違いをしていることにも気付かずに
       またけらけらと高笑いをする
       もはや
       心などどこにも残されていないくらいの笑い声で
       
       本来 無心とは
       自然であることで
       虚無に見出すものではない
       心をなくすことであり
       自身をなくすことではない
       煩悩から心を離すことであり
       意識下に宿るものではない
       自由に表現することであり
       教本に記されているものではない
       
       そう言っても
       心を見失った者は
       ただ漠然と
       無心という言葉を思い浮かべるだけで
       その意味を分かろうともしないだろう
       
       しかし
       心を見失った者は
       心のかけらをどこかに隠し持っているかも知れない
       心を見失った者が
       心のかけらを探すことにより何かを感じるかも知れない
       
       そう信じたい思いが心を見失った者に助け舟を出す
       
          ここに一枚の絵画がある
          このカンバスに描かれているのは一人の少女
          少女は民族衣装を身に纏っている
          顔はこちらに向いていて、
          目元と口元にうっすら微笑みを浮かべている
          視線はこちらには向けられていない
          少女は片手に何かを持っている
          背景は黒
          室内にいるのか室外にいるのかは分からない
       
       心を見失った者は
       無心となり この絵画を見つめる
       少女の視線の先にあるものを思い
       少女が手に握るものが何かを考えるだろうか
       そして
       語りかける少女の無言の声を聞くことがだろうか
[PR]
by dreaming_star | 2004-04-09 23:07 | 詩の目次1-100
<< 今日はこんな気分。 撫でたい背中 >>