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詩 『 林檎のオルゴール 』

       林檎がひとつ
       テーブルの上に置かれている
       白いネットに包まれた林檎は
       ひし形の網目越しにも
       よく熟れているのが分かる
       
       その林檎は
       沈む夕日が燃え尽きる前に
       一瞬見せる色にも似ていて
       赤黒の色をして
       艶やかな光沢を放ちつつ
       さりげなくそこに
       置かれてあった
       
       いつかぼくは
       きみに言ったことがある
       『 無性に林檎が食べたいときがある 』
       そう言ったぼくの言葉をきみは覚えていて
       ぼくのためにきみが
       林檎を買ってきてくれたんだと
       うれしさを表現することが下手なぼくは
       無表情のまま
       果物ナイフと簡易のまな板を取り出し
       ネットに包まれたまま
       熟した林檎を手にする
       
       うん?
       手にした林檎の意外な軽さに違和感を感じ
       ぼくは側にいるきみの顔を見る
       きみはいまにも吹き出しそうな顔をしている
       ぼくは林檎の枝の部分にあるつまみをくるくると回す
       大きな古時計のオルゴールが
       メロディを奏で始めた
       
       オルゴールの音が流れると同時に
       きみは大声で笑い始める
       ぼくは林檎にかぶりつき
       オルゴールの音を止める
       目と目が合う
       そのとき
       すべてのときが止まった
詩集 林檎のオルゴール
by dreaming_star | 2004-11-07 22:52 |
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