詩 『 鳩 』

       ぼくは
       数日ほど前から鳩と暮らしている
       ベランダにあるベンジャミンの木に
       一羽の鳩がやって来て
       ずーっとそこに止まって
       逃げようとしないのだ
       
       一週間ほど前
       隣人が可笑しな鳴き真似をしているのを
       ぼくは暗がりの帰り道に聞いた
       「ホーッホッホッホ」
       何かを呼び寄せているような声だった
       その声を聞いたとき
       ぼくは隣人に気付かれないように
       玄関へ向かって駆けていた
       隣人と顔を合わせ
       気まずい雰囲気になるのを恐れたのだ
       「あっ、どうもこんばんは。」
       「いやっ、今お帰りですか?」
       さりげない言葉を交わしながら
       恥ずかしくて仕方ない会話
       見ちゃいけないものを見てしまった
       見られたくないものを見られてしまった
       お互いに気まずい思いをするならば
       ぼくが見なかったことにすればいいと
       ぼくはそそくさとその場を立ち去ったのだ
       それから後のことだろう
       鳩がぼくの家のベランダにある
       ベンジャミンの木に来たのは
       
       ぼくは
       鳥が嫌いではないけれど
       好きでもない
       優雅に羽を広げ
       空を飛ぶ鳥の姿には憧れるけれど
       公園で戯れる鳥の群れを見ると
       持っていたパンを
       小さくちぎってやったりするけれど
       あの鋭く尖ったくちばしが
       すぐ傍までやって来て
       手の上にでも乗ろうとするならば
       気が気ではなくなり
       振り払って逃げ出してしまうくらい
       あのくちばしが怖いのだ
       
       そんなに怖がる鳥(この度は鳩だが)と
       ぼくはここ数日ほど暮らしている
       ぼくが朝日を浴びようとカーテンを開ける度
       アイロンがけをしながら視線を上げる度
       鳩は窓の先
       ずっとそこにいて
       じーっとぼくを見ている
       ぼくも負けずにじーっと見返す
       互いに観察し合う間に分かり合えたんだろうな
       ぼくは昼間食べきれなかったサンドイッチを
       鳩の目の前に置き二、三歩下がる
       鳩はきょとんとした目で
       サンドイッチとぼくを交互に見つめ
       ツン、ツンツンと
       ひとくち毎
       胡散臭そうにサンドイッチを啄ばむ
       ぼくはふふーんと
       声に出しそうになりならがも
       顔をにんまりさせるだけで
       鳩には近づかない
       鳩も
       ツンツンとサンドイッチを啄ばみ
       全部食べてしまった後も
       その場から離れようとしないのだから
詩集 鳩
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by dreaming_star | 2004-10-21 22:05 |
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