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詩 『 砂の城 』

       ぼくが子どもだった頃
       家族で海水浴に出かけた
       父さんは元気で
       兄さんも元気で
       家族みんな元気だった頃
       よく海水浴に出かけていた
       そのころのぼくは
       まだほんの子どもで
       小波が来ても
       浚われてしまうくらい
       胴に巻く浮き輪はすかすかで
       浅瀬で泳ぐにも
       浮き輪にしがみついていないと
       溺れてしまうくらい
       まだほんの子どもで
       海水浴に行ったとき
       ぼくの遊び場は砂浜だった
      
       砂浜で
       ぼくは砂の城を作った
       塩気混じりの砂をすくって
       小さなバケツいっぱいに
       ぎゅぅっと押して詰め込んで
       ひっくり返して作った城
       大波が来ると
       飲み込まれてしまうのに
       時間が経つと
       崩れ落ちてしまうのに
       そんなこと
       知らないぼくは
       一生懸命砂浜で
       塩気混じりの砂の城を
       完成させようとしていた
       
       最近ぼくは
       朝
       目覚めると
       少量の砂を手にしている
       どこで手にしたのか
       夢の中で手に入れたのか
       それさえも覚えていない
       でも
       朝目覚めると
       いつも
       手のひらに
       少量の砂を握っている
       
       そうか
       そうなんだ
       あの頃から
       ずいぶんと経つのに
       ぼくは
       いまだに
       砂の城を完成させてはいない
       ぼくが手にした
       一握りの砂は
       ぼくに
       砂の城を作り続けよと
       言っているのだ
       
       ぼくは作ろう
       砂の城を
       波に浚われようとも
       日に照らされようとも
       また新たな砂の城を作り
       子どもの頃作りたかった
       ぼくの砂の城を完成させよう

     
by dreaming_star | 2004-10-18 22:10 |
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