詩 『 手 』

       モデルになってくれないか
       その申し出に
       ぼくの脳裏を裸婦像が過る
       きっとそのとき
       ぼくの顔は
       ムンクの 叫び よりも
       ひどい顔をしていたのだろう
       ハハハッ
       声の主は
       声高に一笑すると
       手のモデルだよと
       父親のような眼差しで
       ぼくを見ていた
       
       小枝のように色黒で
       筋張ったぼくの手
       モデルなんて
       到底務まりそうもないけれど
       このぼくの手が
       役に立つのならばと
       ぼくは右手を差し出した
       
       声の主は
       一枚の写真を取り出し
       ぼくに見せると
       この手と同じポーズをしろという
       その写真は
       高村光太郎の彫刻 手 だった
       ぼくはそれらしいポーズをしてみる
       
       一見簡単そうなポーズも
       指先に力が入り同じポーズが出来ない
       中指を少し折り曲げて
       人差し指は真っ直ぐに
       薬指の先は中指から少し出るように
       小指の第二関節は角張らせ
       親指は手の甲中央に向けて
       ようやく
       それらしいポーズが出来るようになった頃には
       ぼくの手は力で凝り固まり
       痙攣を起こしてしまっていた
       
       ふいに誘われた手のモデル
       そのかたちを再現しようと
       同じポーズをする手に
       ぼくは
       自分の手に込められた力強さに驚き
       これまでにこんなにも
       強い力で何かを
       つかもうとしたことがあるだろうかと
       震えが止まらぬ手を握りしめた
詩歌 手
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by dreaming_star | 2004-09-12 23:54 |
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